気の毒な菩提樹

先週は、暑かった。

まる一週間、気温が30度前後まで上がる日が続くと、冷房のない生活はなかなかキビシイものがある。夜も寝苦しいので、なんかグッタリしてしまった。
でも植物にとっては良い気候だったようで、窓の外の鉢植えなんか、朝の水やりのたびに目に見えて大きくなっていったし、菩提樹の開花も今年は早かったように思う。気が付いたら満開で、わずかな小雨が降った後や夕方・早朝に外出すると、どこからともなく蜜の香りが漂ってくる。つくづく良い香りのする花である。



ところで、この菩提樹のことをロシア語ではлипа(lipa) というのだが、最近になって、この名称が実は「べたつく・ネバネバする」という意味の形容詞липкий と同語源だと知ってオドロイた。なな…なんで? こんなに香りの良い花を咲かせ、真夏には涼しい木陰を提供する、どっちかっつーと爽やかイメージの木のどこに、「べたつく」なんて言葉と結びつく要素があるわけ???

…というわけで語源辞典を調べてみると、どうやら樹液や花の蜜が「べたつく」らしい。花が終わるころになると、木の下に置いてあるものが蜜でニチャニチャする(…らしい)ことから、そういう名称がつけられた…という話である。確かに、あれほど強く香るのだから、小さい花ながら蜜の量は相当なものだと想像がつく。北ヨーロッパでは古くから、もっとも一般的なハチミツの蜜源でもある。
…でもさあ、だからって木の呼び名を『ベタベタ』にしなくても良さそうなもんだ。もっと美点に目をやれないもんかね…

ちなみにゲルマン語派の”linden”は、ソフトとかマイルドとかジェントルとか、なんかそういう意味の言葉が語源になっているそうだ。菩提樹は木材としては柔らかくて加工しやすいそうなので、そこらへんから付いた名将ではないかと思う。個人的に期待していた「甘い香り」とか「涼しい木陰」とかいう、さわやかな意味の語源ではなかったが、何にしてもスラヴ語の『ベタベタ』よりはだいぶマシだ。

ところで、語源を調べるに先だって改めて辞書を引いていたら、なんとロシア語の липа という単語には「菩提樹」のほかに「偽物・まがいもの」という意味があることを知って二度びっくりしたのだが、こちらはどうやらゲルマン語派の語源となった「柔らかくて加工しやすい木材」という性質が元になっているようだ。
ヨーロッパで上質な家具といえば、樫材とか柏材など木目の詰まった堅い木材で作られるものだが、それに似せたものを柔らかい菩提樹の木材で作って「樫のテーブル」なんぞと偽ったりすることから、липа=偽物という口語が生まれたらしい。

なんだかなあ…。
語源といい、派生した口語といい、ロシア語では妙にマイナス面ばかりを強調されているようで、菩提樹が気の毒になってしまう。

しかし名称がどうあれ、私にとって菩提樹は良いイメージしかない。おそらく現代の(大多数は語源など気にしていないだろう)ロシア人にとっても、良いイメージのほうが強いと思う。初夏に咲く白い小さな花は可愛らしいし、緑の葉のコントラストも美しい。花の季節にただよう蜜の芳香は言うまでもないが、花が終わってからも夏の強い日差しの中で菩提樹が落とす濃い影は、見るだけで涼しげだ。
残念ながら今のアパートには庭もベランダもないが、もし自分の庭があったら、その一角にはきっと菩提樹を植えるだろうと思う。
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