煮る人

今月12日、正教の復活祭をもって2月末から続けていた大斎戒がようやく明け、わが家でも肉・魚・乳製品が解禁となった。というわけで、今週は斎戒中にできなかった料理を片っ端から作って食べている。

ところで、ロシア語で「料理人(料理する人)」のことを повар という。英語のCook や、フランス語の Cuisinier に相当する単語だが、英語やフランス語はいずれも「料理する」という意味の動詞から派生した語であるのに対し、ロシア語の場合はварить(煮る・ゆでる)という意味の動詞から派生しているんである。

ちなみに、ロシア語には他にも調理方法を表す動詞として жарить(焼く、炒める、揚げる)、тушить(蒸す・蒸し煮する)、печь(かまど・オーブンで焼く)などがあるのだが、これらを総合した「料理する」という意味の動詞が、実はない(!)。むろん、日々の食事を作るにあたって、いちいちその調理方法を言ってはいられないから、ざっくり「料理する」という意味をあらわすためには готовить という動詞を使う。しかしこれは本来「準備する」という意味の動詞であって、その対象は食べ物とは限らない。出かける支度をするのも試験に備えて勉強するのも、人生の一大事を前に肚をくくるのも、готовитьなんである。これが「料理する」という意味になるのは、あくまでコンテクストによるのであって、英語の cook やフランス語の cuisiner のように、それだけで「食べ物を作る」という意味を表すワケではないのだ。
したがって готовить という動詞からでは「料理人(料理する人)」という語は作れない。だから「煮る」という動詞を料理の代表的な動作として「料理人」という語が作られたと考えられるが、してみるとロシアにおいては「料理すること≒煮ること」だったということか。確かに伝統的なロシア料理を思い浮かべると、ボルシチだの壺焼きだの、長時間かけて煮込む料理が多い。

こんな単語ひとつからでも、けっこう色んなことが考察されて面白い。つくづく言語というのは、その国の文化・民俗を反映しているものだと思う。

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